直木賞作家でありながら書店経営者としても奔走する今村翔吾氏は「作家という職業をビジネスとして成立させる」ことに極めて自覚的な作家です。
彼が語る「作家で食っていく方法」は、単なる精神論ではなく、非常に実践的で戦略的なものです。2025年に同名の著書『作家で食っていく方法』も出版されていますが、彼がこれまで語ってきた生存戦略の要点は、以下の4つの柱に集約されます。
1. 「覚悟」と「期限」の逆算思考
今村氏は30歳でダンスインストラクターを辞め、「作家になる」と決めて退路を断ちました。彼の戦略の根幹は「締め切りから逆算する」ことにあります。
- 3年間の猶予設定: 「3年で芽が出なければ辞める」という強烈な期限を設けました。
- 物理的な追い込み: 実家の一室に籠もり、壁に「直木賞をとる」と貼り、生活費が尽きる前に結果を出すという「背水の陣」を敷きました。
- 新人賞の乱れ打ち: 最初の短編は「締め切りが4日後にある賞」を選んで書き上げました。「この4日で書けなければプロにはなれない」と自分を追い込み、見事受賞しています。
2. 「筋肉」としての執筆量(量とスピード)
彼は「才能」という言葉を安易に使わず、「書くことは体力(筋肉)である」と説きます。
- 圧倒的な多作: デビュー後、驚異的なペース(年に文庫書き下ろしを何冊も出すなど)で作品を発表し続けました。「質は量からしか生まれない」という考えのもと、まずは市場に自分という商品を並べ続けることを重視しました。
- 書くことを止めない: 「傑作を書こうと気負うと手が止まる。まずは書き切る」ことを徹底しています。インスピレーションを待つのではなく、毎日決まった時間に机に向かう「職人」としての姿勢を貫いています。
3. 「勝つ」ためのマーケティング戦略
今村氏は、作家を「商店主」、作品を「商品」と捉える視点を持っています。
- 賞の傾向分析: 新人賞に応募する際、過去の受賞作や選考委員の好みを徹底的に分析しました。自分が書きたいものと、求められているものの交差点を見つける戦略です。
- ターゲットの明確化: 「現代の読者は何に疲れ、何を求めているか?」を常に考えています。自己満足のアートではなく、読者を楽しませる(癒やす、興奮させる)ためのエンターテインメントに徹しています。
- 冒頭3行の勝負: 「現代人は忙しい」という前提に立ち、冒頭の数行で読者の心を掴まなければ本を閉じられるという危機感を持って執筆しています。
4. エコシステムを作る(書店経営と育成)
「作家個人で食っていく」だけでなく、「業界全体を回す」という視点も彼の特徴です。
- 書店経営: 大阪の書店(きのしたブックセンター)を事業継承したり、シェア型書店を運営したりしています。これは「本が売れる場所(書店)」を守らなければ、作家も共倒れになるという危機感からです。
- 後進の育成: 自身が目指したように、若い作家志望者が食っていける土壌を作るため、文学教室や講演を積極的に行っています。「あとに続く者のために踏み台になる」というリーダーシップを持っています。
具体的なアドバイス(今すぐできること)
彼が作家志望者に向けてよく語る具体的なアクションは以下の通りです。
- 最後まで書き切る癖をつける: どんなに稚拙でも、完結させなければ評価の土俵にすら立てない。
- インプット(読書)をサボらない: 彼は「読書は食事」と表現します。良い文章を体に入れないと、良い文章は出てこない。ただし、執筆中は他人の文体に引っ張られないよう注意する。
- 「兼業」でも良いが「覚悟」は専業以上に: 仕事を言い訳にしない。時間は作るもの。
結論
今村翔吾流の「食っていく方法」とは、「執筆を神聖なアート扱いせず、徹底したビジネス(顧客視点・納期厳守・品質管理)として遂行する」ことに尽きます。
もしあなたが作家志望であれば、まずは「具体的な締め切り(新人賞の応募期限など)を設定し、そこまでに必ず1作を完結させる」ことが、彼のアドバイスに従う最初の一歩となります。
長編を年3冊出せ、とか具合的に作家になる方法を示されていた本だった。
